絵本ひろば

「絵本ひろば」から出版! 絵本作家インタビュー


『だいかぞく』作者 南 知里さん

『だいかぞく』が生まれてから出版されるまで

――絵本ひろばに投稿されたうちのひとつ、『だいかぞく』で第1回読み聞かせ絵本大賞を受賞し、書籍化となりました。もともと『だいかぞく』はどういうきっかけで描かれた作品だったのでしょうか。

もともと12年ぐらい前に描いたもので、父が亡くなった後、ふとした瞬間にひらめいたストーリーだったんですよね。おばあちゃん、ひーおばあちゃん、ひーひーおばあちゃん……と、おばあちゃんがどんどん出てきて、最後にケーキのろうそくを吹き消して終わるっていうだけのお話。思いついてすぐに絵を描いて、色も一気に塗りました。それだけだと尻切れトンボだなぁと思っていたので、その後もお風呂に入る場面や、最後に記念写真を撮る場面を加えたり。削りましたけど、ケーキを運んでいるだけのページとかもあったんですよ(笑)。

削られたページの原画

描いては削ってを繰り返すうちに、ある家族の一日にしたほうがいいなと思いました。いろいろと足していったら最終的にすごいボリュームになっちゃったんですけど、絵本ひろばはページ数の制限がないのがありがたかったですね。普通、絵本って15見開き程度で描くものなので。それを全部載せたらたくさん反響があって、さらに読み聞かせ絵本大賞でも大賞をいただけて。あのとき全部載せてよかったなと思いましたね。

――読み聞かせ絵本大賞受賞を受けて、南さんにとって自作の絵本の初の書籍化となりました。アルファポリスの担当編集者にも話を伺いたいと思います。

担当編集A/南さんは『だいかぞく』に加えて、『パンくんのパンケーキ』でも第11回絵本・児童書大賞特別賞を受賞されている、実力のある作家さんです。当初は別の担当者と一緒にオリジナルの作品を一緒に進めていたんですよね。その作業に時間がかかっていたこともあり、一度原点に立ち返って『だいかぞく』を先に出版しましょうということになりました。南さんと相談した結果、絵本ひろばに投稿されたものから、全ページ絵を描き直していただきました。絵のタッチも変えてもらっています。

――南さん、書籍化にあたってどんなところを意識されましたか。

内容として大きく変えたのは、男女関係なく家事をするように描いたところですね。私の母や祖母の世代だと、どうしても女性というと専業主婦というイメージが強かったので、「おかえりなさい。お風呂にしますか、ご飯にしますか」なんて聞くシーンもあったんです。でも今は多くの女性が働いていますし、家事は夫婦で行うものになっているので、編集さんからアドバイスをいただいて、お父さんたちが料理をしたりしています。時代性に合わせることというのはすごく勉強になりましたね。

――全ページ描き直されたということですが、絵を描く上での苦労はありましたか。

悩みましたね。もともとの『だいかぞく』は、マジックで縁取りをして、色もベタ塗りだったんですよ。キャラクターっぽくしたほうが子どももわかりやすいのかなと思っていたんですが、絵本にするとなると、もう少し柔らかいタッチのほうが長く読んでもらえるかもしれないと思い、編集Aさんに相談して、いくつかパターンを描いてみました。かなり柔らかく描いてみたものもありましたね。結局、最初の縁取りのパターンと最も柔らかいタッチの中間ぐらいになりました。

――微妙な違いを出されたんですね。

昔は描くのも速いほうだったんですが、絵本にするとなると、一枚一枚丁寧に描きました。食べ物もおいしそうに見えてほしいですしね。アナログで描いているので、アクリル絵の具を溶いたりと時間はかかるんですけど、心をこめて描くようになりました。

左が柔らかめのタッチでアウトラインを細めにとったもの。右はアウトラインを太めにとったもの。

読者が喜ぶ姿を見て感じた、絵本作家になれた喜び

――出版後、茅ヶ崎の長谷川書店で開催された「絵本とおはなし会」という、『だいかぞく』を主題にしたイベントが行われたそうですね。

お子さんたちもいる中で読み聞かせをしていただき、そして私のサイン会もしていただきました。読み聞かせはボランティアの方にやっていただいたんですが、私までドキドキで。コロナ禍だったので大勢集まるという感じではありませんでしたが、読み聞かせを聞いていたらすごく感動してしまって。来ていたお母さんたちも感動されていましたね。みんなが喜んでくださっているのを見て、感激で胸がいっぱいでした。一生忘れられない思い出になりました。

――絵本作家になれた喜びを強く感じられたんですね。

イベントが決まってから当日までずっと、「私なんかでいいんだろうか」って思っていたんです。でもイベントを終えて、来てくださった方たちと会えて、これからも頑張って絵本を描こうと思いました。特に私はなかなか出版にこぎつけられなかったので、ことさら感激してしまいましたね。私が描きたいと思った世界を、みなさんも見て一緒に楽しんでくださるというのが、とても幸せに感じました。

過去作品の原画